スタッフ山本のデジタフルワールド Vol.9
デジタル化すると云う事の本質(1)
山本は以前、映像の業界で仕事をしていました。今から12年ほど前のことです。当時はパソコンがじわじわと制作のフローに入り込み始めている頃で、製作現場にはリニア編集機と呼ばれる映像テープを編集機器と、Avidと呼ばれるMacintoshの編集機器(ノンリニア編集機と呼ばれていました)が共存する中で仕事をしていました。
いまや映像編集は当たり前にパソコン上で行う時代。ですが、当時はまだそんなことは無く、「パソコン上で映像を編集する?そんなこと出来るわけ無いじゃないか」と言う声のほうが圧倒的でした。
それはもちろん、マシンシステム上の限界点や、画質、オペレーション技能についての問題点など様々な事象が包括されての意見だったのですが、その中でももっとも大きな意見としては「PC上で作れるようになると、今までの制作フローが全て変わってしまう」と言う事に対する危機感でした。
そして、それは映像に限らず、DTPやWebを始めとしたクリエイティブ職すべての問題でもありました。
それまでの映像制作は、編集する前に絵コンテや監督との打ち合わせを綿密にこなし、完成系を思い描いてから、制作に取り組むと言うスタイルでした。それは、何度も編集をやり直すとテープがこすれて劣化する、一度編集したものをやり直すのに、一時間や二時間、場合によっては数日かかるときも有るという状況だったからです。
しかし、これがPC上での作業になるとどうなるでしょう。PC上で取り扱うデータは、当然のことながらデジタル化された信号です。映像も、音も、全てデジタル信号であり、ボタン一つで修正も変更も可能なら、元の状態に戻す事もコピーもボタン一つです。
「とりあえずやってみましょうか」と、様々な完成形を作ってみてから改めて考え、再度制作に取り組む、と言ったトライアンドエラーが何度も何度も行える状況になったのです。
これは実に衝撃的なことで、作品を作るワークフローを激変させました。
例えば彫刻で言えば解りやすいです。
彫刻は一度削ってしまえば、もうやり直しは効きません(厳密には違うのかもしれませんが)。ですので、完成の形を思い描いてから、その形に向かって作業をしていきます。
しかし、この彫刻を一瞬で元通りに戻せたり、全く同じ削り方の彫刻を一瞬でコピーできたりしたら…制作の手法は大きく変わると思います。
パソコン上で何かを作り上げる、と言うときに、この特性をしっかり理解しておく必要が有ります。この「デジタル化する」「データとして使う」ことのポイントをしっかり理解し、その上で作品を作る事がクオリティにも、また就職した先でワークフローを理解するときにも大事になってきます。(続く)